日本国内における睡眠時無呼吸症候群の方は約500万人(男性 約3〜7%、女性 約2〜5%)と推定されており、そのうち治療を受けてらっしゃる方は1割程度と言われています。男性では40歳~50歳代が半数以上を占め、女性では閉経後に増加します。この病気は治療によって大幅に改善することが多く、無呼吸が疑われた場合は早めに受診することが大切です。
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(SAS; Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり(無呼吸)や浅くなったりして(低呼吸)体が低酸素状態になってしまう病気です。10秒以上呼吸が止まる状態を無呼吸、浅い呼吸を低呼吸と言います。睡眠中の1時間あたり5回以上の無呼吸や低呼吸が認められる場合に診断されます。
無呼吸・低呼吸で夜中に何度も目が覚めてしまい、熟睡できないため、昼間の眠気や体のだるさを引き起こし、日常生活に影響を及ぼすことがあります。同時に、血液中の酸素が不足することによって、脳や心臓などに負荷がかかり、心不全、不整脈 (心房細動、心室頻拍、徐脈性不整脈など)、狭心症・心筋梗塞、脳梗塞・脳出血などの重大な合併症のリスクが約3~4倍高くなります。特に無呼吸低呼吸指数(AHI; Apnea Hypopnea Index)30以上の重症例では (詳細は後述)、心血管系疾患発症の危険性が約5倍にもなり、突然死する可能性も上昇します。また、体にストレスがかかり、血圧が上昇します。この他にも糖尿病、脂質異常症、肥満症、認知症やうつ病などの様々な基礎疾患にも悪影響を与えます。しかし、適切な対応により、これらの合併症が起こるリスクを低減できます。
症状
SASの症状は、夜間(睡眠中)と日中(活動時)のものに分けられます。最も多い症状は、睡眠中のいびきです。SASの方は空気の通り道が塞がってしまうことが多いため、いびきが生じやすく、また、窒息感で目が覚めてしまうこともあります。熟睡できず、夜間に頻尿(トイレに行く回数が増える)になることもあります。睡眠の途中で目が覚めるため、熟睡感は得られず、日中に強い眠気に襲われます。日中の眠気は、作業効率を低下させ、居眠り運転事故・労働災害の原因となります。
睡眠中に十分な呼吸ができないと体内に二酸化炭素が蓄積するため、起床時に頭痛を感じることもあります。SASが見つかるきっかけで多いのは、周囲の方から「いびきがうるさい」と指摘されることです。
睡眠時無呼吸症候群のよくある症状
- 周囲の方からいびきを指摘される
- 夜間の睡眠中によく目が覚める(息苦しくなって目覚めることもあります)
- 起床時の頭痛や体のだるさを自覚する
- 日中の眠気などを経験する
原因
SASの原因で最も頻度が高いのは肥満です。首まわりの脂肪の沈着が多いと、上気道が圧迫されやすくなります。また、顎が小さい場合や後退している場合、のどの奥の形(扁桃腺や口蓋垂が大きいなど)によってSASのリスクになるため、やせている方でもSASであることが少なくありません。
舌が大きくなる甲状腺機能低下症や先端巨大症の方もSASになりやすくなります。扁桃肥大や、鼻の病気(鼻炎・鼻中隔弯曲)も原因となります。また、アルコールや睡眠薬は、気道の筋肉を弛緩させる作用があるため、SASを悪化させます。喫煙も喉の粘膜に炎症を生じ、気道を狭窄させる可能性があります。
診断
まず、問診と診察を行います。問診では、患者さんの日中の眠気を評価するためにESS(エプワース眠気尺度)問診票が知られています。24点満点で評価され、11点以上で日中の眠気が強いと判断します。
エスワープ眠気尺度(ESS)問診票
ほとんど眠らない | たまに眠る | しばしば眠る | ほとんど眠る | |
---|---|---|---|---|
1.座って読書中 | 0 | 1 | 2 | 3 |
2.テレビを見ているとき | 0 | 1 | 2 | 3 |
3.人が沢山いる場所で何もしていない時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
4.車に乗せてもらっている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
5.午後横になって休憩中 | 0 | 1 | 2 | 3 |
6.座って誰かと話している時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
7.昼食後、静かに座っている時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
8.運転中に信号や渋滞で数分間とまった時 | 0 | 1 | 2 | 3 |
合計 |
全項目の合計点を出して、日中の眠気を評価します。
0~5 | 日中の眠気は少ない |
---|---|
5~10 | 日中に軽い眠気がある |
11〜 | 日中に強い眠気がある |
11点以上の場合は、SASが疑われますので、受診を御検討ください。
SASが疑われた場合、簡易型睡眠時無呼吸検査(アプノモニター)を行い、SASか否かのスクリーニングを行います。検査は、機器を装着した状態で睡眠をとりながら行います。機器の装着は簡単で、自宅で行うことができます。
簡易モニターを行うと、無呼吸と低呼吸の回数が分かります。1時間の睡眠中に生じた無呼吸と低呼吸の合計値を無呼吸低呼吸指数(AHI; Apnea Hypopnea Index)と呼びます。無呼吸は「10秒以上の口や鼻の気流停止」、低呼吸は「10秒以上の気流低下に、低酸素状態または覚醒を伴うもの」と定義されます。
AHIが5以上の場合にSASと診断されます。SASの重症度の判定もAHIで行います。AHIが5以上15未満の場合は軽症、15以上30未満の場合は中等症、30以上の場合は重症に分類されます。
正常 | 睡眠時無呼吸症候群 | |||
---|---|---|---|---|
軽症 | 中等症 | 重症 | ||
無呼吸低呼吸指数(AHI) | AHI<5 | 5≦AHI<15 | 15≦AHI<30 | 30≦AHI |
より正確にSASの診断をつける際には、脳波を含めた精密検査であるポリソムノグラフィー(PSG)という検査を行うこともあります。簡易検査と異なり、より多くの機器を取り付ける必要があるため、医療機関への一泊の入院が必要になります。
具体的にクリニックで行うこと
SASが疑われた場合、検査会社に連絡して、ご自宅に配送するウォッチパット(簡易アプノモニター)を予約させていただきます。ウォッチパットがご自宅に届きましたら、それを装着して一晩寝ていただき(装着は簡単です)、翌日以降にウォッチパットを検査会社に御返送ください。検査結果は2営業日ほどでクリニックに届きます。結果のご説明を致しますので、お手数ですが、クリニックに御来院ください。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の分類
SASは、閉塞性・中枢性・これら両方が関係する混合型に分類されます。
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閉塞型:大部分はこちらです。気道(口や鼻から肺の入り口である声帯に至る空気の通り道)が細くなるために生じます。仰向けで寝ていると、重力の影響で舌が落ち込みます。睡眠中には、のどの緊張が緩むため、気道がさらに狭くなります。閉塞性の特徴は、「いびき」がほぼ必発である点です。
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中枢型:心不全や脳梗塞・脳出血などにより、呼吸を調整する脳の働きが低下するために発生します。
治療
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閉塞性SAS:
まず大切なのは、生活習慣の改善です。肥満の方は減量が効果的です。肥満になると首のまわりに脂肪がつき、気道が狭くなり、閉塞しやすくなります。減量することで首のまわりの脂肪が減り、SASも改善します。喉の筋肉を弛緩させる睡眠薬を避けることや晩酌を控えることも大切です。禁煙に努めましょう。仰向けの体勢では重力によって舌が落ち込み、気道を塞ぎやすくなります。横向きで寝ることが推奨されます。
SASに対して最も効果的な治療は、経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP; Continuous Positive Airway Pressure)です。特殊な機械で圧力をかけて空気を送り込む治療法です。
CPAP療法では、寝る前に鼻や口を覆うマスクを装着します。マスクから持続的に送られる空気で気道を開通させ、閉塞しないようにします。CPAP療法により睡眠中の無呼吸・低呼吸が減少、熟睡感を得られるようになり、日中の眠気も減る傾向にあります。さらに、SASの合併症が起こるリスクを軽減させることが証明されています。
保険診療でCPAPを行うには、簡易アプノモニターでAHIが40以上である必要があります。AHIが40を下回る場合は、精密検査であるPSGの実施についてご相談します。PSGでAHIが20以上あれば、保険診療でCPAPを使用できます。
CPAP療法で使用される機械は非常に小型化されており、カバンに入れて持ち運びすることもできますので、行動範囲が制限されることもありません。ただし、体調の確認・機械の調整のチェックが必要なため、月に1回は受診していただく必要があります。AHIが5以上、20未満の軽症〜中等症のSASには、マウスピース(口腔内装置)などで治療を行う場合があります。マウスピースには顎を前方に突出させる役割があり、顎が前方に移動すると気道が開通し、閉塞を防げます。マウスピースを作成する際には、歯科クリニック受診が必要となります。必要時は歯科クリニック宛ての紹介状をお渡しいたします。
気道閉塞の原因が、口蓋扁桃の肥大によるものであれば、他院にご紹介し、摘出することを検討します。手術治療として、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術が施行されることもあります。 -
中枢性SAS:原因となる病気の治療が優先されます。心不全を合併している場合は、心不全の治療を最適化する事で症状が改善する可能性もあります。
睡眠時無呼吸に対応するために、CPAPだけではなく在宅酸素療法を検討することもあります。