更年期障害

加齢男性性腺機能低下 (LOH; late onset hypogonadism) 症候群

更年期障害は女性だけのものではなく、男性にも起こります。LOH症候群は加齢あるいはストレスに伴う男性ホルモン (テストステロン) の低下によって起こる病気で、最近のストレス社会では、増加しています。

症状

全身倦怠感、めまい、イライラ、不眠、耳鳴り、睡眠障害、物忘れ、筋力低下、集中力低下、精神不安、勃起不全 (ED)、ヒゲが薄くなる、など様々な症状を認め、「うつ病」などと勘違いされてしまうことも多いです。
テストステロンの低下は、メタボリックシンドローム、糖尿病、肥満、骨粗鬆症 (こつそしょうしょう)、心血管疾患 (動脈硬化・血管内皮機能の低下)、サルコペニア (筋肉減少症) などとも関連します。

検査

AMSスコア (Heinemann aging male symptoms score) が用いられます。AMSスコアで27点以上は軽度の異常、37点以上は中等度以上の異常が示唆され、医療機関の受診が必要なレベルです。
血液中の総テストステロン値が診断・治療の適応の判断の際に重要です。
(注:血中テストステロン値は日内変動や日々の変動があるため、午前7時から11時の間に空腹で採血することが推奨されています。さらに、異なる2日での測定も推奨されています)
症状とあわせて総合的に判断することが大切です。
他に血液検査で前立腺腫瘍マーカー (PSA (prostate specific antigen))、LH、FSH、プロラクチンなども測定します。(治療開始後1年間は3カ月ごと)
メタボリックシンドロームに関係する項目も検査します。

治療

食習慣、運動習慣、睡眠状態、ストレスのチェックを行い、改善を促します。
漢方薬 (補中益湯など) やプラセンタ治療、ED治療薬、抗うつ薬、抗不安薬、骨粗鬆症の薬などの処方を行います。
テストステロン値が低く、症状が重い場合は、テストステロン補充療法を第一に行います。
テストステロン補充療法の方法は、注射剤、経口剤、皮膚吸収剤がありますが、わが国では注射剤 (エナント酸テストステロン) のみが保険適応となっています。
通常2週間おきに125 mg~250 mgを筋注します。注射が苦手な方はゲル剤を1日に1~2回塗布する治療法もあります。ゲル剤は、注射剤よりも生理的で、欧米ではゲル剤を好む方が増えていますが、我が国では保険適応外です。
当院では注射製剤のみ処方可能です。

男性ホルモン補充療法の副作用にはニキビ、女性化乳房、多血症、脂質異常症などがあります。また、男性ホルモンは前立腺がんや前立腺肥大症の進行を早める可能性があり、治療中は定期的に前立腺の検診やPSA検査を受ける必要があります。

内分泌疾患

ホルモンは体内のさまざまな機能を調節しています。ホルモンに異常が生じると、体調にさまざまな変化が現れます。当クリニックでは、症状から内分泌疾患の診断・治療へのアプローチを行い、必要な場合は速やかに連携施設にご紹介致します。

下垂体疾患

下垂体疾患とは、下垂体という内分泌器官から分泌されるホルモンが多すぎたり、少なすぎたりして生じる病気です。下垂体機能低下症では複数のホルモンが障害を受けている可能性があります。ホルモン分泌には日内変動があるため(TSH、プロラクチンを除く)、通常はホルモンが最高値となる早朝に採血します。

下垂体から分泌されるホルモン

前葉
  • ACTH (副腎皮質刺激ホルモン)
  • TSH (甲状腺刺激ホルモン)
  • GH (成長ホルモン)
  • LH (黄体形成ホルモン)
  • FSH (卵胞刺激ホルモン)
  • PRL (プロラクチン)
後葉
  • ADH (抗利尿ホルモン)
  • オキシトシン

下垂体ホルモンと標的器官

各ホルモンはそれぞれの標的器官に作用します。

レジデントのための内分泌代謝教室 米国専門医に教わる全13章 第8章より

多くの下垂体ホルモンはフィードバック機構によって分泌が調節されます。

下垂体疾患の主な分類として腫瘍性疾患、血管性疾患、器質性疾患、炎症性・浸潤性・感染性疾患、機能性疾患に分けられます。
なかでも腫瘍性疾患に分類される下垂体腺腫 (非機能性)、器質性疾患に分類される外傷・手術・放射線療法後、炎症性・浸潤性・感染性疾患に分類されるIgG4関連下垂体炎、機能性疾患に分類される腫瘍による圧迫、特発性下垂体機能低下症 (各種前葉ホルモン低下)、尿崩症、薬剤性ホルモン分泌異常 (免疫チェックポイント阻害薬など)、視床下部性・ストレス性ホルモン分泌低下は比較的認められます。
疑われた場合は、早めにホルモン検査を行いましょう。

下垂体疾患の分類

腫瘍性疾患
  • 下垂体腺腫 (機能性・非機能性)
  • 下垂体へのがん転移
血管性疾患
  • 下垂体卒中 (梗塞、出血)
  • シーハン症候群
器質性疾患
  • 外傷・手術・放射線療法後
  • Empty sella
炎症性・浸潤性・感染性疾患
  • リンパ球性下垂体炎
  • IgG4関連下垂体炎
  • サルコイドーシス
  • 結核
機能性疾患
  • 腫瘍による圧迫
  • 特発性下垂体機能低下症
    (各種前葉ホルモン分泌低下)、尿崩症
  • 薬剤性ホルモン分泌異常
  • 視床下部性・ストレス性ホルモン分泌低下

それぞれのホルモンの作用の過剰または低下による症状・所見が認められます。複数のホルモンが異常となることも少なくありません。

早朝安静時のホルモン検査の結果、異常を認めた場合は、すみやかに連携施設に紹介致します。

副腎疾患

両側の腎臓の上に位置する副腎は様々なホルモンを分泌する臓器で血圧、体液量、血糖などを調節しています。皮質と髄質で構成され、皮質ではアルドステロン、コルチゾール、性ホルモンなどが産生され、髄質ではカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリンなど)が生成されます。

副腎疾患をホルモンの異常の有無で分類すると以下の表のようになります。

副腎疾患の分類

ホルモン異常をきたす疾患 ホルモン産生過剰 クッシング症候群
原発性アルドステロン症
褐色細胞腫
先天性副腎過形成
ホルモン産生欠乏 副腎不全
副腎出血
先天性副腎過形成
ホルモン異常をきたさない疾患 非機能性副腎腫瘍
副腎結核

副腎偶発種

健康診断や他疾患に対する画像検査で偶然発見された無症状・無所見の副腎腫瘍のことで、ホルモン異常をきたさない非機能性腫瘍が最多です。
原発性副腎癌は100万人に2人程度とまれです。

検査

早朝安静時に以下のホルモン値を測定し、機能性かどうかを確認します。
コルチゾール・ACTH・DHEA-S・レニン・アルドステロン・メタネフリン2分画 (随時尿)・カテコールアミン3分画 (血中)

悪性腫瘍を示唆する画像所見:大きさ4cm以上、年間0.8cm以上の増大、CT濃度HU 10以上、両側性

治療

機能性が疑われる場合は、さらに精査を行います。
非機能性の場合、上記の悪性が疑われる所見を認める場合は手術 (摘出術) を検討します。
悪性を示唆する所見が認められなければ、半年〜1年ごとにCTまたはMRIを行います。

機能性

原発性アルドステロン症

副腎皮質からアルドステロンが自律的に過剰分泌され、血圧上昇と低カリウム血症を生じます。二次性高血圧の代表的な疾患です。

検査・診断

血液検査:安静時の血中レニン・アルドステロンでアルドステロン値≧60 pg/mLかつアルドステロン/レニン比(ARR)≧200の場合に陽性です。当クリニックではこちらまで行い、陽性の場合は、連携施設にご紹介致します。
陽性の場合、カプトプリル負荷試験、生理食塩水負荷試験、立位フロセミド負荷試験などを行い、1種類以上陽性であれば診断が確定します。
CTでは腫瘍が不明確である場合もあり、注意が必要です。
診断後、手術希望があり、手術可能な例では副腎静脈サンプリング検査で原因となる部位を確定します。

治療

片側性の腺腫の場合は手術の適応となります。
手術不可能 (両側性など)・手術を希望されない方の場合は、アルドステロンの作用を低下させることを目的とした内科的治療を行います。第1選択薬はミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン、エサキセレノン)です。

クッシング症候群

コルチゾールの過剰によって起こる疾患をクッシング症候群といいます。コルチゾールが過剰に分泌される疾患は以下の4つに分類されます。①下垂体腺腫、②副腎腫瘍、③異所性ACTH産生腫瘍、④薬剤性です。

  1. 下垂体腺腫からACTHが過剰に産生されることによるものをクッシング病といい、中年の女性の発症が多いです。ACTH・コルチゾールとも高値を認めます。
  2. 副腎腫瘍の多くは、良性の腺腫ですが、悪性のこともあります。ACTHは抑制され低値となります。
  3. 腫瘍からのACTHによってコルチゾールが分泌されます。大半は、肺腫瘍(肺小細胞がん、気管支カルチノイド腫瘍)や前縦隔腫瘍(胸腺腫、カルチノイド腫瘍)によるものです。
  4. ステロイド(糖質コルチコイド)剤の長期使用によるもので、外用薬(吸入、点鼻、経皮)でも起こります。

症状

診断

検査 スクリーニング検査:蓄尿中遊離コルチゾール測定、
1mgデキサメタゾン負荷試験、深夜血中コルチゾール測定
→スクリーニング検査で陽性の場合、ACTH値測定、8mgデキサメタゾン負荷試験
当クリニックでは、1mgデキサメサゾン負荷試験まで行います。それ以外は、連携施設にご紹介致します。

続いて画像検査で病巣を確定します。

治療

手術により病巣摘出を行います。
下垂体の残った病巣に対しては放射線照射を追加します。後遺症として視神経損傷や下垂体機能低下症があります。
副腎癌には抗がん剤を投与することもあります。
手術直後は、副腎不全 (詳細は後述)をきたしやすくなるため、術後にステロイドを補充し、徐々に減量し、中止を検討します。

平田結喜緒:日本内科学会雑誌 2003;92:359-366を参考に作成

褐色細胞腫

腫瘍からカテコールアミンが自律的に過剰分泌されます。副腎髄質から分泌される場合を褐色細胞腫、副腎外からをパラガングリオーマといいます。

症状

交感神経が過剰に刺激された症状を生じます。症状の英語の頭文字から「5H」と呼ばれます。

  1. Hypertension(高血圧)
  2. Hypermetabolism(代謝が高まる)
  3. Hyperglycemia(高血糖)
  4. Headache(頭痛)
  5. Hyperhidrosis(汗が多い)

検査

尿中メタネフリン、血中カテコールアミン
当クリニックでは上記高値を認めた場合、連携施設にご紹介致します。

機能診断が確定してから画像診断を行います。
MIBGシンチ、PETスキャン、CTでHU 10以上、MRIで出血・壊死像

治療

根治療法は手術です。
手術の適応がない場合、手術を希望されない場合は内科的治療(α1ブロッカーが第1選択)を行います。
βブロッカーの単独投与は高血圧緊急症を引き起こす可能性があるため禁忌です。

日本内分泌学会:褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018.
日本内分泌学会雑誌94巻Suppl. August一部改変

副腎不全

副腎皮質から分泌されるコルチゾールなどのステロイドホルモンが欠乏した状態を指します。原因となる部位によって2つのタイプに分類されます。

  1. 原発性副腎皮質機能低下症:副腎自体の機能不全を原発性副腎不全と呼び、アジソン病(自己免疫性)などにより起こります。
  2. 続発性副腎皮質機能低下症:視床下部または下垂体の機能低下によるACTH分泌低下に起因するものを中枢性副腎不全といいます。副腎皮質は萎縮します。ステロイド剤の長期服用に伴うことが少なくありません。免疫チェックポイント阻害薬に起因することもあります。

症状

疲労感、全身倦怠感、筋力の低下、体重減少、やせ、むくみ、腹痛、食欲不振、嘔吐、下痢、低血糖、低血圧、関節痛、精神的な落ち込みなどのさまざまな症状が現れます。

検査

血液検査:コルチゾール、ACTH、Na、K
原発性はACTHが高値となり、続発性はACTHが低値となります。

上記で異常を認める場合は、以下の検査を行います。当クリニックでは、連携施設にご紹介致します。

治療

コルチゾール低下に対し、ヒドロコルチゾンを補充します。臨床所見、血圧、血糖、電解質などを指標に補充量を調整します。原発性ではフルドロコルチゾンも適宜使用します。