脂質異常症とは
血液中の脂質の値が基準値から外れた状態です。脂質の異常には、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、トリグリセリド(中性脂肪)の血中濃度の異常があり、いずれも動脈硬化の促進と関連します。
脂質異常症は、自覚症状は認めませんが、放置すると、動脈硬化が進み、心疾患(狭心症、心筋梗塞)や脳血管疾患(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)などの重篤な病気を引き起こします。
脂質代謝経路
レジデントのための内分泌代謝教室 米国専門医に教わる全13章 第4章より
能登洋・林直子(編): 看護学テキスト. 病態・治療編[5]内分泌・代謝疾患. P.45, 南江堂, 2019.
標的臓器:①小腸、②肝臓、③末梢組織
- LDLコレステロールは肝臓由来で、末梢組織で利用されたり動脈硬化を惹起したりします。
- HDLコレステロールは脂質を肝臓へ輸送します。
脂質異常症を放置すると・・・
脂質異常症は、自覚症状は通常なく、健康診断で発見されるケースが多いです。そのため、治療されずに放置されるケースも少なくありません。
LDLコレステロールが高く、HDLコレステロールが低い状態が続くと動脈硬化が進行し、血管壁にコレステロールが蓄積する病気です。コレステロールが蓄積すると、血管の弾力性が失われるだけでなく、蓄積物からプラークを発生させ、動脈の壁が厚くなり、血液の通る内腔が更に狭くなります。これが破綻すると血栓ができて、血管を閉塞し、心臓や脳への血流が減少します。その結果、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞など重篤な合併症を引き起こします。さらに腎機能の低下も引き起こします。
LDLコレステロールが高い状態が続くと、皮膚・軟部組織の症状(皮膚黄色腫、アキレス腱黄色腫、角膜輪)をきたします。
トリグリセリド(TG)が著明に高い状態が持続すると、多発性丘疹が生じたり、急性膵炎のリスクになることも知られています。急性膵炎は、膵臓に急激な炎症反応が起き、全身状態が悪化する病気で、生命にかかわる病気のひとつです。
脂質異常症の診断基準
高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高TG血症のうち1つ以上を認めた場合に脂質異常症と診断します。
LDLコレステロール、HDLコレステロール、TGのうち、メタボリックシンドロームの診断基準に用いられるのは、HDLコレステロール、TGでLDLコレステロールは含まれていません。しかし、LDLコレステロールは単独でも強力に動脈硬化を進行させ、心臓や血管の病気になる確率を上げるため、特に注意する必要があります。
LDLコレステロールだけでなくTGにも動脈硬化作用があるため、近年ではnon-HDLコレステロール(総コレステロールーHDLコレステロール)も使用されます。non-HDLコレステロール値はLDLコレステロール値に30mg/dLを足した値が基準値です。
脂質異常症の診断基準
LDLコレステロール | 140mg/dL以上 | 高LDLコレステロール血症 |
---|---|---|
120〜139mg/dL以上 | 境界域高LDLコレステロール血症 | |
HDLコレステロール | 40mg/dL未満 | 低HDLコレステロール血症 |
TG | 150mg/dL以上(空腹時)* | 高TG血症 |
175mg/dL以上(随時) |
- 健康診断の項目にもある総コレステロール(TC)は、Friedewald式というHDLコレステロール + LDLコレステロール + TG×1/5(空腹時採血の場合のみ)で示されます。
- TGが400mg/dL以上の場合や随時採血の場合はLDL-C直接法またはnon-HDL-C(TC-HDLコレステロール)を使用します。
- 低HDLコレステロール血症単独では薬物介入とはなりません。
「高脂血症」から「脂質異常症」へ
以前は「高脂血症」と呼ばれていた病名は「脂質異常症」という名称に変更されました。
悪玉コレステロールであるLDLコレステロールは高いことが問題ですが、善玉コレステロールであるHDLコレステロール値は低い方が心疾患などの危険が高いため、高い値だけでなく、低い値にも注目したほうが良いという理由からです。
脂質異常症の原因
下記の原発性と続発性があります。治療方針が異なるので、鑑別が大切です。
最も多い原因は、続発性の中に含まれる不摂生なライフスタイルです。血液中の脂質は、食生活・運動の影響を大きく受けます。過食や多量の飲酒、喫煙、運動不足などは、脂質異常症の発症に大きく起因します。
甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、糖尿病など他の病気が原因となって脂質異常症を発症することもあります。これら続発性脂質異常症の頻度は高いため、血糖、甲状腺ホルモン、肝機能、腎機能、尿定性の検査も必須です。
原発性は、生活習慣とは関係なく遺伝的な要因などでコレステロールやTGの異常をきたします。特に問題となるのが、家族性高コレステロール血症です。若年でも狭心症や心筋梗塞を発症しやすくなるため、早期発見・重点的な治療介入が重要です。
原発性脂質異常症の分類
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原発性カイロミクロン血症
- 家族性リポ蛋白リパーゼ欠損症
- アポリポ蛋白CⅡ欠損症
- 原発性V型高脂血症
- その他の原因不明の高カイロミクロン血症
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原発性高コレステロール血症
- 家族性高コレステロール血症
- 家族性複合型高脂血症
-
内因性高トリグリセリド血症
- 家族性Ⅳ型高脂血症
- 特発性高トリグリセリド血症
- 家族性Ⅲ型高脂血症
- 原発性高HDLコレステロール血症
続発性脂質異常症の分類
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高コレステロール血症
- 甲状腺機能低下症
- ネフローゼ症候群
- 原発性胆汁性肝硬変
- 閉塞性黄疸
- 糖尿病
- クッシング症候群
- 薬剤(利尿剤、βブロッカー、コルチコステロイド、経口避妊薬、シクロスポリンなど)
-
高トリグリセリド血症
- 飲酒
- 肥満
- 糖尿病
- クッシング症候群
- 尿毒症
- SLE
- 血清蛋白異常症
- 薬剤(利尿剤、非選択性βブロッカー、コルチコステロイド、エストロゲン、レチノイドなど)
厚生省特定疾患原発性高脂血症調査研究班
原発性をより理解するために・・・
血中の脂質としてトリグリセリド(TG)、コレステロール、リン脂質が重要です。TGとコレステロールはリポタンパクという粒子として形成され、血液を通して身体中に輸送されます。
リポタンパク質の内部には、水に溶けにくいTGとコレステロールエステル(コレステロールに脂肪酸が結合したもの)が、その外側にはリン脂質、遊離コレステロール、水に溶けるアポタンパク質が存在します。
リポタンパクはその脂質の構成割合の違い、比重の軽さによってわけられます。
リポタンパクは比重の軽いものから、カイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDLに分類され、比重が重くなるにしたがって大きさは小さくなります。
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カイロミクロン(CM):80-90%がTGです。CMはリンパ管・胸管から大循環に入ります。食事からの脂質が小腸で吸収されてTGになり、筋肉や脂肪組織のリポ蛋白リパーゼ(LPL)によってTGが加水分解され、組織に遊離脂肪酸とグリセロールが供給されます。TGの大部分はLPLで加水分解された後、カイロミクロンレムナントとして肝臓に取り込まれます。
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超低比重リポタンパク(VLDL):TGが約55%、コレステロール20%の割合です。肝臓で合成されます。アポタンパク質B-100(アポB-100)を含みTGおよびコレステロールを末梢組織へと輸送します。VLDLは、血漿中の遊離脂肪酸(FFA)およびカイロミクロンレムナントに由来する過剰なTGを肝臓から搬出するための手段です。VLDLの合成は肝臓内FFAの増加に伴って増加します。肥満やコントロール不良な糖尿病や高脂肪食摂取時に過剰な脂肪組織がFFAを循環血液中に直接放出するときなどに生じます。VLDL表面のアポタンパクC-II(アポC-Ⅱ)は内皮のLPLを活性化することでTGをFFAおよびグリセロールへと分解し、細胞によって取り込まれます。
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中間比重リポタンパク(IDL):TGが約40%、コレステロールが約35%の割合です。LPLがVLDLとCMを加水分解する過程で作られます。肝臓で除去されるか、肝リパーゼによってアポB-100を保持したままLDLへと代謝されます。
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低比重リポタンパク(LDL):全てのリポタンパク質の中で最もコレステロールに富んでいます。全LDLの約40~60%はアポBおよび肝LDL受容体による過程を介して肝臓で除去されます。残りは肝臓のLDL受容体または肝臓以外の非LDL受容体によって取り込まれます。
LDL粒子のサイズは、大型で浮揚性のものから小型で高密度のものまであり、small dense LDLは特にコレステロールエステルが豊富で、高トリグリセリド血症・インスリン抵抗性など代謝障害を引き起こします。 -
高比重リポタンパク(HDL):肝臓と小腸で合成され、はじめはコレステロールを含みません。末梢組織や他のリポタンパク質からコレステロールを受け取り、他の細胞やリポタンパク質(コレステロールエステル転送タンパク質(CETP)を用いて)・肝臓(除去目的)など、それが最も必要とされている場所まで輸送します。作用は抗アテローム形成性で、抗酸化および抗炎症もあります。
検査
脂質異常症は自覚症状がないため、健康診断などで発見されることが多いです。他の病気の検査や心筋梗塞・脳梗塞などの病気の際に偶然発見されることもあります。さらに、脂質異常症にはホルモンの異常(甲状腺疾患やクッシング症候群など)や遺伝性疾患(家族性高コレステロール血症など)が関与している場合もあります。脂質異常症は動脈硬化を進行させてしまうため、早期発見・早期治療が重要です。
脂質異常症の原因および合併症を発見するために以下のように進めます。
- 問診:既往歴、家族歴、喫煙歴、飲酒歴、運動習慣、食事内容など
- 身体所見:身長、体重、BMI、腹囲、血圧、眼の診察(角膜輪の有無)、皮膚の診察(腱黄色腫の有無)など
- 血液検査:脂質異常症は、ホルモンの異常で引き起こされることもあるため、血液検査で確認します。例えば、橋本病による甲状腺機能低下症ではLDLコレステロールが上昇し、クッシング症候群ではLDLコレステロールとTGが高くなります。先端巨大症や褐色細胞腫などでも脂質異常を生じる可能性があります。
- 画像検査:頸動脈エコー、アキレス腱肥厚の確認
治療について
まずはLDLコレステロールに注目します。動脈硬化作用が大きく、治療による改善効果が最も確立しているからです。冠動脈疾患の発症リスクに応じて管理目標を設定します。この目標値は薬物療法の開始基準値ではないことに注意が必要です。
①ご自身の管理目標を確認しましょう。
LDLコレステロール管理目標設定のためのフローチャート(簡易版)
日本動脈硬化学会 編:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版. p.54
管理目標値は、動脈硬化性疾患の発症リスクに応じて決定され、リスクが高い方ほど、より厳格な目標値が設定されます。最もリスクが高いとされる方は、狭心症や心筋梗塞、アテローム血栓性脳梗塞を患ったことがある方で、二次予防の対象となります。また家族性高コレステロール血症(FH)の場合も厳密に管理する必要があります。
次にリスクが高い方は、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)をお持ちの方で、高リスクに該当します。
それ以外の場合は、個別のリスク評価が必要です。喫煙、高血圧、低HDLコレステロール血症、耐糖能異常、早発性冠動脈疾患の家族歴は危険因子のため、該当する個数、性別、年齢によってリスク分類されます。
脂質管理目標値
治療方針の原則 | 管理区分 | 脂質管理目標値(mg/dL) | |||
---|---|---|---|---|---|
LDLコレステロール | non-HDLコレステロール | TG(中性脂肪) | HDLコレステロール | ||
一次予防 | 低リスク | < 160 | < 190 | < 150(空腹時)*3 < 175(随時) |
≧ 40 |
中リスク | < 140 | < 170 | |||
生活習慣の改善を行った後、薬物療法の適応を考慮する | 高リスク | < 120 < 100*1 |
< 150 < 130*1 |
||
二次予防 生活習慣の是正とともに薬物治療を考慮する |
冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞*4の既往 | < 100 (< 70)*2 |
< 130 (< 100)*2 |
②生活習慣の改善(食事療法、運動療法、体重管理、禁煙、節酒)が基本です。
続発性脂質異常症の場合は、原疾患の治療が第一です。
まず喫煙者は禁煙しましょう。本人が喫煙をしていなくても、周囲の人が喫煙している場合もあります。受動喫煙もできる限り避けましょう。
食事療法
過食を避け、総エネルギー摂取量を適正に保ちましょう。脂質を総エネルギー摂取量の20〜25 %に制限し、炭水化物を50〜60 %とします。
コレステロールを多く含む食品(卵黄、レバー、乳製品、肉の脂身・動物性脂肪、揚げ物)の摂取量を減らしましょう。ショ糖、単糖類、果糖といった糖質の過剰摂取は、TG上昇の原因となりますので、お菓子、果物の摂取には注意しましょう。アルコール摂取は20g/日以下に制限しましょう。
アルコール 20g/日の具体例
- ビール(5%)ロング缶 1本(500ml)
- 日本酒 1合(180ml)
- ウィスキー ダブル1杯(60ml)
- 焼酎(25度)グラス1/2杯(100ml)
- ワイン グラス2杯弱(200ml)
- チューハイ(7%)缶1本(350ml)
逆に・・・青魚に多いEPAやDHAなどn-3系多価不飽和脂肪酸はTGを上がりにくくし、大豆製品に多いn-6系多価不飽和脂肪酸はLDLコレステロールを減らしますので、積極的に摂りましょう。大豆製品や野菜、海藻類、きのこ、こんにゃくには食物繊維が豊富に含まれ、コレステロールの小腸での吸収を抑え、便として排泄されるのを促します。
運動療法
運動を日々の生活習慣に取り入れることで、血中脂質の数値の改善が期待できます。適度な運動はHDLコレステロールを増加させ、TGを低下させます。1日30分以上の有酸素運動(軽度ジョギング、水泳、サイクリングなど)を行うのもいいでしょう。少し息が上がる程度の強度が目安となります。1日合計30分以上、週3回以上続けることが理想です。
薬物療法
3か月ほど生活習慣改善を行っても管理目標値まで達しない場合は、薬物療法を検討します。ただし、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患のリスクが高い方は、早めに薬物療法を始める場合もあります。特に高LDLコレステロール血症は、「低ければ低いほど良い」と言われています。
また、いずれの管理区分でもLDLコレステロール 180 mg/dL以上の場合は薬物療法を考慮してもよいとされています。TG 500 mg/dL以上が持続する場合、急性膵炎予防のために早期に薬物療法を開始します。
実際に!
LDLコレステロールの管理目標の達成が最も重要です。LDLコレステロールが管理目標を達成しても高TG血症を合併している場合はnon-HDLコレステロールを二次目標として脂質管理を行います。
高TG血症と低HDLコレステロール血症については一次予防・二次予防ともに空腹時TG 150㎎/dL未満、随時TG 175㎎/dL未満、HDLコレステロール 40㎎/dL以上を目指します。
低HDLコレステロール血症については有効な薬剤があまりないです。HDLコレステロールのみが低く他の脂質異常を伴わない場合、冠動脈疾患のリスクも高くないという報告があります。生活習慣改善、運動療法、LDLコレステロール、non-HDLコレステロール、TGの管理が重要です。
高LDLコレステロール血症の薬としてはHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ)、陰イオン交換樹脂、ニコチン酸誘導体、プロブコール、PCSK9阻害薬が使用されます。特にスタチンはLDLコレステロール低下作用が強く、動脈硬化抑制効果のエビデンスもあり、第一選択薬となります。
*LDL降下薬の作用機序:スタチンは肝臓内でのコレステロール合成を阻害し、エゼチミブは小腸からの脂質の吸収を阻害し、PCSK9阻害薬は肝臓でのLDLコレステロール受容体の分解を阻害することで、いずれもLDLコレステロール受容体の数が増加します。その結果、肝臓でのLDLコレステロールの取り込みが亢進し、血中のLDLコレステロール濃度が低下します。
レジデントのための内分泌代謝教室 米国専門医に教わる全13章 第4章より
non-HDLコレステロールが高い場合、すなわちLDLコレステロールとTGの両方が高い場合にはLDLコレステロール低下を優先します。スタチンを中心にTG低下作用をもつ薬剤を組み合わせます。
高TG血症に対しては、フィブラード系薬、選択的ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体α(PPARα)モジュレーター、ニコチン酸誘導体、n-3系多価不飽和脂肪酸(EPA,ω-3脂肪酸エチル(EPA/DHA製剤)等)が使用されます。
※スタチンとフィブラート系薬の併用は横紋筋融解症のリスクを高めるので慎重に投与します。両者の適応がある場合は、エゼチミブとフィブラートを併用するか、スタチンとイコサペント酸(EPA)の併用を優先します。
※フィブラート系薬は腎機能が低下している場合は投与禁忌です。
脂質異常症治療薬
日本動脈硬化学会 編:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)
主に肝臓に作用してHMG-CoA還元酵素という酵素の働きを阻害し、主にLDLコレステロールの生成を抑制します。効果の強さによってスタンダードスタチンとストロングスタチンに分類されます。
スタンダードスタチンの薬:プラバスタチン(メバロチン®)、シンバスタチン®(リポパス)、フルバスタチン(ローコール®)
ストロングスタチンの薬:ロスバスタチン(クレストール®)、アトルバスタチン(リピトール®)、ピタバスタチン(リバロ®)
フィブラート
主に肝臓に作用してPPARαを活性化し、TGの産生を抑制します。わずかにHDLコレステロールを増加する効果もあります。
フェノフィブラート(リピディル®)、ベザフィブラー(ベザトール®)
選択的PPARαモジュレーター
従来のフィブラートよりも特異的にPPARαを活性化し、TGの産生を強く抑制します。
ペマフィブラート(パルモディア®)のみ
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
小腸でのコレステロール吸収を阻害し、主にLDLコレステロールを低減します。
エゼチミブ(ゼチーア®)、エゼチミブとスタチンの合剤
エゼチミブとスタチンの合剤を使用することで、より強力なLDLコレステロール低減効果を得ることができます。
ω3系不飽和脂肪酸製剤
主にEPAとDHAというω3系の不飽和脂肪酸を含む薬剤で、TGを下げる効果を持ちます。心血管疾患のリスクを低減する効果も期待されます。
イコサペント酸エチル(エパデール®)、ω-3脂肪酸エチル(ロトリガ®)
ニコチン酸誘導体
肝臓で脂肪酸合成を抑制することで、TGを下げる効果があります。LDLコレステロールを減少させ、HDLコレステロールを増加させる作用も持ちます。
ニコチン酸トコフェロール(ユベラ®)、ニコモール(コレキサミン®)、ニセリトロール(ペリシット®)
陰イオン交換樹脂(レジン)
消化管内で胆汁酸を吸着します。肝臓は新たな胆汁酸を合成するためにコレステロールを消費することでLDLコレステロールを低下します。
コレスチミド(コレバイン®)、コレスチラミン(クエストラン®)
その他の脂質異常症治療薬
注射薬:主に家族性高コレステロール血症の患者さんに使用されるPCSK9阻害薬エボロクマブ(レパーサ®)
注射薬:PCSK9を生成する遺伝情報を持つmRNAを標的とするインクリシランナトリウ(レクビオ®)
MTP阻害薬:ロミタピド(ジャクスタピッド®)
家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia; FH)
頻度
生まれつきLDLコレステロールが高く、若年時から動脈硬化が進行する病気です。特に心臓の血管への影響が大きく、心筋梗塞・狭心症・突然死のリスクとなります。ヘテロ接合体(一方の親からLDL受容体やその働きに関わる異常遺伝子を受け継いでいる)とホモ接合体(両親から異常遺伝子を受け継いでいる)があります。ヘテロ接合体は約200〜300人に1人、ホモ接合体は約100万人に1人の頻度です。若年から虚血性心疾患のリスクが高いために、早期に治療を開始することが重要です。
診断基準(15歳以上の成人)
- 未治療時のLDLコレステロール値 180 mg/dL以上
- 腱黄色腫(手背、肘、腱など)、皮膚結節性黄色腫、アキレス腱肥厚(超音波検査でアキレス腱の厚みが男性6.0mm以上、女性5.5mm以上)のいずれか
- FHあるいは早発性冠動脈疾患(男性 55歳未満、女性 65歳未満)の第1度近親者(両親、兄弟、姉妹、または子供)
の3項目うち2つ以上を満たす場合に診断されます。
治療の基本は、動脈硬化の発症および進行の予防であり、LDLコレステロール値を管理目標値の100 mg/dl未満に達成することです。
強力なスタチンの最大耐用量かつ/またはエゼチミブの併用を行います。難治性の場合は、陰イオン交換樹脂、ニコチン酸誘導体、プロブコール、PCSK9阻害薬も使われます。ホモ接合体FHの場合はLDLアフェレーシスやMTP阻害薬使用が検討されます。